竹内 創(たけうち はじめ)
デザイン学部
メディアデザインコース 講師
インタラクティヴ性をテーマにしたCD-ROM、インスタレーション、展覧会の制作。新しい映像表現として観客参加型のインタラクティヴ・シネマを日本とフランス間で研究・制作する。京都を中心に活動するアート・デザイン、音響・映像ユニットsoftpadの一員としても活動する。
旅・デュシャン・リアル
大学の3年が終わり、春休みに旅に出た。一人、イギリスからイタリアへと欧州を巡るバックパックひとつの気ままな旅。たいした目的があるわけではない、若者らしい“旅のための旅”だった。でも、それが始まりとなった。「パリに寄ったとき『この街に住んでみたい』と思いましてね。今、思えばそれがきっかけだったんですね」 影響を受けた作家、マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp1887-1968)が住んだ街。「自分も、同じ空気を感じてみたい」こんな気持ちが芽生えた。
卒業後、パリ大学へ留学することとなるのだが、最初はもっと単純に「1年間も行ければいいな……」と考えていた。渡仏の資金を貯めるためアルバイトに精を出し、語学学校で仏語を学び始めた。半年後に渡仏。軽い気持ちがいつしか変化した。再び大学へ入ることを志すこととなった。「ご存じですか? フランスって授業料がメチャクチャ安いんですよ」 パリ大学で年間の授業料が当時1万円程度だったそうだ。「施設はさすがに日本の大学のように整ってなくて、講義が中心なんですがね」 仏語を必死になって勉強してパリ第8大学に合格した。「日本でも勉強してましたが全然ダメでしたね。教科書の言葉で話す訳ではないし、何しろフランス人はもの凄くしゃべる。しゃべる量が多いから、速度も速い。聴いてもわからないし、話せない。不安を通り越して恐怖に感じるほどですよ。でも、鍛えられましたね」
パリ大学でも継続してデュシャンの研究を続けた。そして“師匠”と尊敬するジャン=ルイ・ボワシエ氏(パリ第8大学教授、メディア・アーティスト)との出会いに結びつく。「ボワシエ先生は、作品は現実とのかかわりが大切と言います。例えば、映像作品を創るとき、撮影する自分と被写体とのかかわりが大切ということ。創作で、作品そのものにも完成されたものはありますが、社会とか世界とのかかわりのほうが重要なんだと」 魅了された。デュシャンの考え方とコンピューターを使った表現が結びつき、さらに作品と社会のかかわり方(=インタラクティヴ)へと繋がっていった。旅は、デュシャンが住んだパリにリアリティを求め、さらに、デュシャンの概念は社会というリアルを求めた。インタラクティヴという概念は、単にコンピューターの世界や映像作品に用いられる対話形式の操作形態ではなく、作品と社会との双方向性、概念と実世界との繋がりを表す、幅広く重要な意味を持った。あてどないように思われた旅には、リアルという一貫した目的があったのだ。
「最近、なんとなくなんですけど、デジタルだけの表現に飽きてきたことを感じるんですね」 映像に映っているものと実際のものの違いを世の中が理解し始めて来ているという。「つい最近までは、大きな画面で、それこそ液晶プロジェクターで見るということでよかったんですが、もう少し、本当にそこで光っているものとか、そこにあるものの存在感が、見直されはじめて来ているように思います」 同時にこのことは、デジタルなもののクオリティが一定の水準に達したことを表しているのではないかとも、付け加えた。「スピーカーから鳴っている音と生演奏の違いです。これからもっとその2つの表現の差が重要になっていくのかな」
デジタルでしか存在し得ない創作物が増えるからこそ実存を求めたくなるのは、単なるノスタルジーだけではないということか。
滋賀県立近代美術館の常設展示作品や所蔵品を新たな視点で展示。音響や映像、照明など様々な表現手段を用い、作品のこれまでとは異なった魅力を引き出す。美術館自体のリミックスともいえる取り組みで、印刷物から展示構成にいたるまで、展覧会をトータルに演出。感覚的に作品とふれあう場を提供した。
noir/blanc black/white 2011
携帯情報端末 iPod touch を使ったインタラクティヴ・タイポグラフィ作品。「言葉」と「音」に関心を持った作家の文章を選び、その中に存在する概念、リズム、時間、空間、質感がモバイルスクリーン上で表現される。それぞれの文章の内容に応じて、文字の動きが操作する人の手の動きと連動してインタラクティヴに展開。