学生自身の興味と意欲に基づき、平面・立体、アート・デザインなど、従来の枠組みを横断して学ぶことのできるアートクリエイターコースが、2013年度からさらに強化され、美術学部全体の編成も大きく変わることとなります。2013年度から美術学部は、アーティストの養成を見据えた専門基礎教育を行う日本画と洋画の「絵画」ブロック、これまでの彫刻、陶芸・ガラス、版画・平面、コミュニケーションアート、美術文化などの全分野の基礎を体験し専門分野を促進する「アートクリエイター」ブロックの2つのブロックとなります。アートクリエイターコースが始まったのが、2008年のこと。4年を経て、初めての卒業生を輩出し、さらなる変革が行われようとしています。美術学部の再編とアートクリエイターブロックの拡大が目指すものを伺いました。
変えることの良さと変えないところの良さ、その両面の大切さを大事にしていきたいというのが、私なりに考えていることです。名古屋芸術大学が40年間築いてきたものをただ捨てようとは思っていません。日本画、洋画と云った絵画領域についてはこれまで培われてきたことをより大切にします。また、彫刻、工芸、版画など工房制作を必要とする領域は、コンテンポラリーな部分も含めしっかりと変えていく。その両者がそれぞれ響き合い強化されるようにと考えています。
アートクリエイターコースには、これまで4年間の実績があります。私自身が直接学生に教える機会は少なくなっていますが、授業の場を見るにつけ、とても良いものになってきていると自負しております。先生方は、学生たちのいいところを引き出そうと懸命になってやっております。従来、芸大にやってくる学生は、入学の時点でデッサンであるとか非常に専門的なスキルを身につけて入ってくることが必須条件でした。しかしながら、現状の中高の教育では美術のカリキュラムが減少し、ことにガラス、陶芸、彫刻などの分野については実技経験を有する入学生が減ってきています。スキルの面では、これらの領域では従来のアートクリエイターコースとほぼ同じ条件となります。それならば、これらの領域も加えアートクリエイターを補強し、同時にさまざまな領域の基礎教育を行い、体験を重ねるというのが今回の再編のひとつの目的です。
これまでのアートクリエイターコース4年間には問題点も残りました。想定では、3年に進級する段階で、学生たちがもっと専門分野を選択してくれるのではないかと考えていました。しかしながら、実際にはアートクリエイターコースのまま卒業を迎えた学生が8割と予想以上の数となりました。その選択が間違いとは思いませんが、これからは、アートクリエイターコースに専門性の高い先生が増えるわけですから、もっと踏み込んだところまでのカリキュラムが可能になり、これまで以上に学生の興味に応えられることになります。その中で、選択決断するということを、学生たちには学んで欲しいと思っています。どの専門を選択するかで悩むことになるかもしれませんが、そうして悩むことが力になります。また変化を恐れず自分の決断に責任を持とうとする力もつくはずです。そうした中で、生涯、アートと取り組んでいくための基礎体力を養っていって欲しいと思います。
ここからは私見ですが、学生たちには達成感も味わって欲しいと思っています。失敗してもいいのでとにかくやりきったという達成感を、一度でもいいので感じ取って欲しいと考えています。美術というのは、音楽などの分野と異なり、技術が向上すれば表現が深まると一概に言えるものではありません。スキルを磨くよりも、自分自身を見つめ、決断してやりきること。評価を気にせず自分の仕事としてやりきること。問題を自分で解決することを、学生たちには体験して欲しい。選択決断することが力になるということを実感して欲しいと思っています。学生たちの自主性に大きくゆだねることになりますが、それこそが美術学部の特性でありたいと考えています。
高校の美術教師になった卒業生など、学生を教える立場になった卒業生たちと話をしている中で、彼らが学生たちから相談を受けるわけです、美術系の大学に行きたいと。これまでなら「何をおいてもデッサンをやらなければいけないよ」となったわけですが、経済的な理由や時間的な問題で、誰しもすぐに画塾へ行ったり先生について練習ができるわけではありません。それでも、すごく熱意があったり、ものづくりが好きであったりと、そういう学生がいます。それを何とかしたいというのが発端です。
そうですけど、まずデッサンの試験をやらないということを考えました。入試のレベルを下げることではなく、デッサンはやっていないけど造形力があるとか、色彩感覚が豊かとか、それらで受けられるような入試方法があれば、これまでのデッサンありきの選抜方法よりも、受ける側にも、学校側にも、新しい可能性があるのではと考えました。
入試方法は、もちろんデッサンが得意な人はデッサンでも受けられる。AO入試の場合は、事前にテーマを与え、それに対し絵なり、何か作品を制作してきてもらい、面接というかプレゼンで選考します。面接といっても砕けたもので、いわゆる面接の作法みたいなものを見るものではなく、極端な話し“タメ口”でもよくて、制作の考えや取り組みの様子を聴きます。それで、課題に対して何かひとつでも一生懸命に取り組んでいるところが見つかれば合格です。課題を自分のこととして引き寄せて考え、出された課題について取材したり、もっと単純にたくさんの絵を描いてきたり、とにかく一生懸命に取り組んでいるところがあれば入学させて、4年間で育てようと考えています。今まで芸大に来ることがなかったタイプの若者に入り口を設けようという考えです。
その点は、学校側はもちろん、学生側に大きな不安があると思います。それなので入学までにスクーリングを行い、スキルを上げて不安をなくして入学してもらおうとケアしています。AO入試は9月に合否判定が出ます。入学まで半年ありますのでそれまでの間、毎月、デッサンの時もあれば、考え方をどうやって作品にしていくかという授業をやったり、6ヶ月で8回の講座を開きます。面白いもので、半年の間に大学生になっていくんですよ。学生同士でコミュニケーションを取ったり、スムーズに入学を迎えられています。
様々なクリエイターを育てようという姿勢に変化はありません。改変では、この姿勢をさらに強化したいと考えています。現在、小中高の美術の時間が減ってしまい、学生たちの美術に対する経験が減っています。経験が少ないため、日本画にしようかデザインにしようかでさえも、どちらか決めかねるくらいに決められないのが現状なんです。4年間アートクリエイターコースを見てきて、学生たちの経験値を上げることができれば、より深い興味や面白さを抱かせることができるとわかりました。これまで、1年の時に、入門的な講座を用意していましたが、これからは、さまざまな領域でその先のグレードの講座を提供することができるようになります。より深い学生たちの欲求に応えられる体制を整えられるようになると思います。
課題はたくさんあります。4年間やってみて、期待以上によくなったものもあれば、あまり効果的じゃなかったというものもあります。それらを精査して次のステップへ結びつくようなカリキュラムの骨子は出来上がっています。専任の教員は、コーディネーターなのかなと思っているんです。実務はおもに非常勤の先生方にお願いしているという形で、僕はそれらを結びつけるコーディネーターだと。スクーリングもそうですけど仕事が増えるばかりで、非常に忙しいです(笑)。ですけど、現場で関わっている我々はやる気まんまん!なんだということをわかっていただきたい。学生たちは、初めは淡い気持ちで入って来るのかもしれませんが、アートというものが世の中にとって大事なジャンルなんだということを学んで、世に出ていって役に立って欲しいと思っています。