山下 藍(やました あい)
幼稚園教員
学生時代にはなかったもの
就職を希望する学生にとって、自分の将来について不安に思うことでいっぱいではないかと思う。特に教育者になることを志望する人間発達学部の学生には、学校、幼稚園、保育園などが主な就職先であり、それらの求人が少子化や経済状況のために厳しくなっていることはご存じの通りである。本校も、また、学生自身も、大学在学中の4年間で教育の現場に対応できるような実力を養おうと、多くの実践的なカリキュラムに取り入れて努めている。しかしながら、実際に現場で日々子どもたちと向き合う先生たちにはとても及ばない。それではどんなことが必要なのか。人間発達学科第二期卒業生、山下さんのお話は示唆に富むものだ。
「思うようにできないのは当然だと覚悟はしてたんですけど、思う以上に保育は大変だし、それ以外にもたくさんやらなければならないことがありますね」
幼稚園教員を第一志望と決断したのは実習を経験した大学3年の夏だった。小学校と幼稚園で迷っていたが、実際に実習に赴き子どもと接して決心したという。実習に行った先は、現在務めている外山幼稚園。子どもの自主性を重んじる自由な教育方針が魅力的に映った。「じつは、1年生の時に1日体験実習みたいなのがあって、そのときに初めて外山幼稚園に行ったんです。それ以来、3年の時の実習先も、4年の時にも6月に個人的にお願いしてボランティアに行きました。ずっと素敵だなと思っていました」 それで、とんとん拍子で就職が決まったかといえばそうではない。4年でボランティアに行った時に、園長からは今年は採用する予定はないと告げられていた。「そこ以外考えていませんでしたし、どうしようかと思いました。パートでもお願いしようかと思っていましたね」 ところがその年の夏になってから、一名欠員が出ることになり歯車は回り出す。「それを聞いて絶対受けますって宣言して。運命だなって思います」
採用1名に対し、受験者は7名。実習に来ていた受験者もいた。どうして自分が受かったのかわかりませんと前置きしつつも、「やっぱり実習が効いたのかもしれません。求人があるかないか関係なく、精一杯やりました」 その時点での実力よりも真摯に取り組んでいたことが評価されたのだろう。
希望を叶えた山下さんだったが、現実の仕事は厳しかった。何度も実習で行った先だったが、やはり違いがあった。「実際に働きに出ると、全然違いますよ。すべてに甘かったなと思うようなことばかりです」 最初の年から担任を持った。なんとか毎日をやり過ごす、無我夢中の1年間だったという。「学生時代にはわからなかったんですけど、働くということの重さというか、責任みたいなことを強く感じました。実習だと終わりがあるんですけど、働くということはずっと続く。そういった心構えですね。自分も社会人になって初めてわかったように思います」
「まだ2年目なんですけど、今年、実習生を見ることになったんです。ついこの間まで自分も実習に来ていたんですけど、この1年で自分が成長したことを初めて実感しました。去年受け持った、子どもたちの成長を見て、よかった、私でも何とか1年間やれたんだなと。先輩の先生たちに比べると私なんかまだまだなんですけどね」 学ぶということに終わりはない。成長過程のういういしいエネルギーがまぶしく、頼もしい。