今年度から本学では、デザイン領域のメタル&ジュエリーデザインコース、テキスタイルデザインコースと美術領域の工芸コース(陶芸・ガラス)の3つコースで領域横断による連携を深め、幅広い素材と他領域の学生との交流を促し対話しながら思考を深める工芸分野領域横断プロジェクトを進めています。連携プロジェクトのひとつ「工芸リレー」として、7月は西キャンパス アート&デザインセンターWestにて3コースが連続して展覧会を開催。前週の工芸コース「陶・ガラス教育機関講評交流展 CONNEXT 2021」に引き続き、7月23日(金)~28日(水)ではメタル&ジュエリーデザインコースの「素材展」を開催し、併せて、特別客員教授 藤田政利氏「風と水の物語」を開催しました。藤田氏は、鉄を素材に柔らかさや温かみ、軽やかさを表現する造形作家で、現在も多摩美術大学で客員教授として教鞭を執っています。展覧会初日の7月23日には、藤田氏によるギャラリートークと学生作品に対する講評会、さらに7月27日には横断連携として美術領域工芸コースの中田ナオト准教授が講評を行いました。
藤田氏の「風と水の物語」展では、学生時代の作品から数点、動物のシリーズを中心に作品を展示。ギャラリートークにて、自身の学生時代から作品の変遷をお話しいただきました。藤田氏は、学生の頃から金属素材の中では扱いにくいとされる鉄に魅力を感じ、現在に至るまで金属の重さや冷たさを感じさせないような表現を模索し続けています。学生時代の鉄で革の鞄を表現した作品やバイオリンを鉄で表現した作品など、すでに確かな技術を感じさせます。今回の展示にはありませんでしたが、1枚の鉄板で柔らかな布や空気の流れを表現したシリーズがあり、それらを経て動物を扱うようになったと作品の変遷を説明していただきました。動物のシリーズでも、鉄板1枚で表と裏を入れ替わるように表現した作品や動物が浮揚しているように感じる作品など、それまでの作品と密接につながっていることがよくわかり、作家性を感じさせます。展覧会や美術展への出展が自分の作品が変わっていくことになるきっかけを与えてくれたと説明しますが、どの作品にも一貫している作家の価値観を強く感じさせる展覧会となりました。また、藤田氏の人柄を偲ばせるような動物たちの愛らしい表情も非常に印象的でした。
講評会では、藤田氏を招いて行われた鉄のワークショップ「浮くカタチ」と4年生の卒業制作プレ展示を中心に、2、3年生のこれまでの課題、また学校の取り組みとして進めているミニメダル作品に対して講評していただきました。プレ展示の講評では、完成品を想像しながら作品の意図を読み取り、制作のポイントや作品の見せ方などのアドバイスいただきました。また、ワークショップで制作した作品もひとりひとりのよくできている点を評価、同時にモチーフを観察することの大切さや技術的な部分など多くの示唆に富む講評をいただきました。学生それぞれの優れた点を見つけ出す着眼点など、講評を受けた学生にとっても大いに励みなるものであったと思われます。
27日は、工芸コースの中田准教授が展示を見学、米山和子教授、瀬田哲司准教授、桑山明美講師の4人がクロストークするような形で講評を行いました。やはり4年生の卒制プレ展示を中心に、これまでの課題と合わせて講評しました。美術領域の中田准教授は、それぞれの作品とこれまでの課題の関連性から、学生自身が気付いていない共通項を探ったり、やはり気付いていないまま作品に反映されている考えを読み解き、無意識ながら枠にとらわれていることや見方を変えればユニークな作品になることなどを提示。学生それぞれがもつ固定概念を疑ってみるような見方を示して、学生らが持つ可能性を探るような講評となりました。自分の中にある作家性に気付かさせるような講評で、デザイン領域の学生にとって大いに刺激となるように思われました。